溶解

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さて、ここまで長々と語ったのには訳がある。実は、僕にとって最も美しく魅力的な存在を紹介したいのだ。 彼女は、常に物事の中心にいるのだが、圧倒的なカリスマ性を持っているわけではない。皆を引きつける魅力の持ち主だが、華美ではなく、寧ろ質素だ。決して、周りに媚びて好かれている訳ではなく、あくまで自然体でそこに在るだけ。そう、彼女は非常に不思議な存在なのだ。 そんな彼女を形容するカラーは、白だ。周りに染まりやすく、無個性な透明ではない。かと言って、一切の穢れがない純白の天使、という訳でもない。彼女には太陽の黒点のように、完璧ではない人間らしさがある。触れることを躊躇する様な白ではなく、生糸色のような白色をしている。 しかし、それだけでは、ただの親しみやすい存在に過ぎないだろう。なぜ彼女は、最上級の存在となったのか?それは、その“とけにくさ”ーーいわば染まりにくさにあった。 一見親しみやすい彼女を、人々は染めようとする。だが、彼女には頑固な側面があった。万物を包容し容認するような柔らかく優しい白をしていながら、彼女は白以外の何者にもなることがなく、そこに在り続けた。 彼女は、人々の心に火をつけた。我こそが彼女を籠絡してみせようぞ、と果敢にも男共は挑戦した。或人は、彼女と全く正反対の存在として。因みに、この場合は純黒を指すのでなく、若干親しみやすさを込めた焦げ茶のような色だ。或人は、新緑のように青々とした、大地のような存在として。彼は生糸色のような彼女に、自然らしい調和を求めたのであろう。或人は、甘酸っぱく初々しい恋の桃色で。これは彼ではなく彼女であったが。 彼女は完全な穢れなき存在ではない故、若干の妥協を覚えた。にわかに溶け、混ざり合った淡いハーモニーはどれも妖艶な魅力を放っていたが、彼女が完全に堕落することは何れの場合もなかった。だからこそ、彼女は美しいままだった。
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