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そう言って颯太は自分のブレザーの襟を正した。
ブラウンのブレザーにチェックのスラックスと深い緑のネクタイ。白いワイシャツは襟にラインが入り、ブレザーなしでもクラシックな印象を残すようにデザインされている。胸ポケットにある金糸のエンブレムは、国内屈指の大学付属校である証だ。
クラシカルで男女共に人気が高い制服デザインと、偏差値の高い中高大一貫校ということから、この学校に通っていることはステータスになる。
しかし蜜は実のところ、このいかにも金持ちの家の子ですと言わんばかりの制服を脱げる日を心待ちにしている。でもそんなことを颯太に言うつもりはないから、曖昧に頷くしかなかった。
「お前も高校三年間彼女なしなんて嫌じゃん? 北高は可愛い子多いしさー……ちょっと期待してもいいんじゃね?」
颯太は思いを馳せるようにほうっとため息をついて、蜜の肩に腕を乗せた。去年の冬あたりから周りでちらほら彼女持ちが増えたせいだろうか、颯太は最近やけに彼女を作りたがっている。
蜜はといえば、異性に興味がないといえば嘘になるけれど、合コンにはあまり気が乗らない。
女の子と話すこと自体は苦手ではない。けれど、クラスの女子と話していても、それだけでいいと思う。たまにみんなでカラオケに行ったり、休み時間に話したり、それで十分楽しいのだ。それ以上の関係を想像したこともないし、彼氏彼女の関係になりたいとも思わない。
今まで恋をしたことがないから、そういう感情がまだわからないのかもしれない。だから年頃の男らしく、合コンや想像上の彼女にウキウキしている颯太が少しだけ羨ましい。
十八歳にもなってそんなことを言うと、子供だと笑われるだろうか。
「……蜜?」
「え? なに」
それまで肩を組んで、まだ見ぬ北高女子に胸を膨らませていた颯太が、ふいにその手を蜜の額にあてた。
「ちょっと熱くね? まじで風邪ひいてないよな」
「ひいてないって。どこも悪くないし」
「そっか。お前地味に女ウケいいから、体調管理しっかりしてくれよな」
「俺の誕生日会じゃねーのかよ」
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