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「恭治くん彼女いらないって」  健悟は少し目を見開いてから、困ったような笑顔を浮かべた。 「ああ……言うだろうね」 「どうして?」 「現状に満足してるから、かなあ。恋人は人生に必ずしも必要なものじゃないから、今あるもので満足ならそれでいいんだと思うよ」 「ふうん」  恭治もそんなことを言っていたけれど、蜜にはやはりまだわからない話だ。  蜜が彼女というものに興味がないのは、現状に満足しているから、というわけではない気がする。単純に知らないから、欲さないというだけだ。でも彼女ができたとしても、人生に満足するのかは謎だ。 「……恭治のいう満足は、少し違うと思うけどね」  蜜が少しばかり考え込んでいると、健悟は独り言のように小さな声でつけ足した。  やっぱりよくわからない。  だから首を傾げると、健悟は笑って「ゲームやってみようか」と立ちあがった。  ――半獣化症候群。  別名、けも耳化。具体的には獣のような変化が体に表れるが、それ以外の症状は特になく、それによって他の病を引き起こすことは報告されていない。遺伝子の突然変異だが、第二次成長期前にワクチンを接種することで抑制が可能。現代では稀。主に思春期に発症し、性的興奮の際に半獣化する。心身が脆いと変化が起こりやすいがコントロールは可能。抑制薬を飲むことで抑えることも可能だが、保険適応外になるため……――。 「はあ」  大きくため息をついて、手にしていたスマートフォンを放り投げた。  時計は夜の十二時を指している。部屋の電気は消えているけれど、雲がないのか月明かりが煌々と射し込んで、ぼんやり部屋を照らしていた。  深海のような深いブルーの世界で、蜜はごろりとベッドに横になる。  寝る前に改めて病名を検索したところで、目新しい情報はない。すぐに実践できるようなコントロールの習得法も見つからなかった。 (心身が脆い……ね)  本来は精淡泊なはずなのに、どうして今日一日で二回も反応したのだろう。  カラオケでの一件を思い出す。引き金はなんだろう。  恭治は頼っていいと言ってくれたけれど、蜜だって男なのだ。自分でなんとかできるなら、自分で解決したい。 (コントロールは、どうやったらできんのかな)
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