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といっても、兄が五年ほど前に警察官になったことを機に家を出てからは恭治と会うことはなくなり、再会したのは、この高校に入学したときだ。
まさか養護教諭になっているなんて思わなかったから、入学式で見たときは驚いた。
蜜は同情されたり、変に距離を取られたりするのが嫌で、学校では他の人に自分の生い立ちを話していない。知っているのは教師くらいだろう。
そして養護教諭とはいえ教員と知り合いだと変に勘繰られるのも嫌で、恭治が以前からの知り合いであることも周囲には話していない。
「まあ突然十歳年上の他人を兄貴と呼べなんて無理だよな」
「そ、そんなことないけどさ……」
蜜は、今の両親のことは普通に父さん、母さんと呼んでいる。でも健悟は出会ったときすでに高校生だったし、当時小学生だった蜜からすると十歳の年の差はかなり大きく感じた。同じ家で過ごしたのも五年ほどだし、最近では顔を合わせることも月に一、二回になってしまった。そのため未だに「親戚のお兄さん」という感じで、なかなか「お兄ちゃん」とは呼べないのだ。
「ん? なんだ。今日、蜜は誕生日なのか」
突然話題を変えられて、はっとする。
見れば恭治は渡したファイルではなく、スマートフォンを見ていた。まさか友人の義弟の誕生日を覚えていたとは思わず、蜜は内心驚く。
「そうだよ」
「十八歳か。お前と会ってもう十年になるんだな……」
感慨深そうに見つめる視線に、蜜は途端に落ち着かない気持ちになった。
恭治は真っ黒でもさもさ伸びた髪は顎より長く、おまけに無精髭。今はしていないけれど、普段は黒縁眼鏡までしている。一八〇センチと身長が高いのに猫背でひょろっとして、いつも白衣のポケットに手を突っ込んでのそのそ歩くから、他の生徒たちからはマッドサイエンティストと影で呼ばれているのだ。
しかしその奥に、細く鋭い目と短く鋭角の眉があり、作ったようにまっすぐな鼻筋と、薄い唇が絶妙なバランスで配置してあることを蜜は知っている。
対する蜜は、十八歳にもなるのに未だに身長は一七〇センチに満たなくて、童顔のまま。目だけがぐりぐりと大きくて、服装によっては中学生に間違われる。ちょっとは男らしく鍛えてみても、肌を焼いても赤くなるし、筋トレしても全然筋肉なんかつかない。
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