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恭治はこのまま大人になったらどうしようと不安を抱えている蜜とは真逆の存在だ。
(そういえば高校のときからすでに背が高かったな……)
世の中の不平等さを改めて感じたところで、恭治が深くため息をつく。正直、ため息をつきたいのはこっちだ。
「人の顔見てため息つくなよ……」
「蜜は十年前から全然変わんねーのな」
「なっ!」
気にしているのに酷い。
口を尖らせて、そのまま出て行こうとするとブレザーの裾を掴まれた。
「おい、待てって。お前なんか顔赤くないか?」
「恭治くんが余計なこと言うからだろー」
「そうじゃなくて……まあいいか。誕生日だし、一限くらいサボりたくなったら来ていいぞ」
「こねーよっ」
ピシャッとドアを閉める。
そして心の中で、しばらく恭治が二日酔いで苦しむよう神に祈った。
***
(なんか、だるい……?)
二時限目あたりからふと体調に違和感を覚えた。
今まで健康優良児そのもので、インフルエンザどころか普通の風邪だってここ数年はご無沙汰なのに、今は間接が軋み、ぞわぞわして熱が出るような嫌な感じがある。
まさか、恭治が苦しむよう祈った罰が当たったんだろうか。
颯太と恭治に指摘されていたときはそんな真に受けていなかったけれど、本当に風邪でも引いたのか。こんな春真っ盛りの時期に?
その疑問は昼休みを前に、いよいよ確信へと変わっていった。
(頭がガンガンする)
心臓の音が大きく体内に響き渡っている。呼吸もどこか苦しくて、全身が熱っぽい。
相当顔に出ていたのか、四時限目が終わるのを待つ間もなく、教師に保健室に行くよう薦められた。
「恭治くん、ちょっと寝かせて」
珍しく一日に二度も保健室に行くと、恭治はデスクに向かいパソコンに向かって忙しそうにしていた。
振り向きかけて、蜜だとわかるとすぐに片手をあげ、好きにしろと手を振る。
「はいはい、ハッピーバースデー」
サボりじゃないっつーの。
しかし今はそんな軽口を叩く余裕すらない。
今まで滅多に保健室の世話になかったけれど、普段から恭治はこんなにいい加減な対応なのだろうか。
内心首を傾げながらパーティションの奥に行くと、今朝恭治が倒れ込んでいた窓側のベッドは、もう綺麗に整えられていた。
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