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ブレザーを脱ぎながら少し迷って、窓側のベッドに体を滑り込ませる。布団を頭まで被ると、太陽のいいにおいがした。リネンが冷えて、熱っぽい肌に心地いい。
横向きになって、膝を抱えるように縮こまると、今まで遠慮していた熱が一気に全身を駆け巡るように、ぐっと体温があがっていくのを感じた。
耳のあたりがざわざわする。
尾骨のあたりもびりびりして、歯が心臓にあわせて脈打つようだ。
(なんだろ……結構やばそう)
今まで感じたことのない急激な体調の変化に、蜜は何か重大な病を発症しているのではと不安になった。
「は……、……はぁ」
息があがる。抑えようとしても我慢しきれず、荒くなった呼吸が漏れていく。
全身がびりびりして、総毛立つ。ドクンドクンと脈打つ鼓動は大きくなり、それは耳のあたりや尻の方に走っていった。
落ち着かない。ぞわぞわして、苦しい。
何かが解放を望むように、熱と衝動が体内を暴れ回る。
「あ……はあ……っは、あ……」
息苦しくて、掻き毟るようにネクタイを解いてシャツを開ける。そのとき、近くで大きな咳払いが聞こえた。
「あー……お楽しみのところ悪いんだけど、オナニーならもっと静かにな?」
その声が聞こえた瞬間、全身にぞくりと甘い痺れが走った。
「きょ、じ……くん……」
「うん? ああ、邪魔しねーって」
耳が鋭くなったのだろうか。恭治の低く密やかな笑い声や、規則正しい息遣いまで聞こえる。本当は自分の心臓の音で、ほとんど何も聞こえないはずなのに。
「ちが……っ、は、……はあ」
「……蜜? 開けるぞ?」
違和感を覚えたのか、訝しむような恭治の声。サンダルの音が近づく。そして布団に手をやる布擦れの音。
「み、……」
一気に光りが入ってくる。
白い光を背に、恭治が眉を顰めた顔が見えた。そして、ごくりと唾を飲み込む喉仏の動きを。
「きょ、きょうじ、くん……おれ、ヘンなんだ」
話しはじめてすぐに、口の中にも違和感があると気づいた。思わず手で口を押さえて、おそるおそる舌先で確認する。上下左右、計四本、糸切り歯がいつもより尖っていた。
(これって……)
ふと、ある可能性に気づいて、でも違っていてほしくて、蜜は縋るように恭治に視線をやる。
恭治は否定することもなく、困ったように首を傾げた。
「お前、けも耳化してんぞ」
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