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(ああ、やっぱり)
手をやると、耳があった部分には大きくふかっとしたものがくっついていて、むず痒さにふるふると揺れた。
「あ……う……どうしよ」
けも耳化――正式には半獣化症候群という。遺伝子の突然変異で、一時的に獣のように見える耳や尻尾に変化する病気だ。
蜜も病名くらいは知っているけれど現在はほとんど発症することがないために症状について詳しく知らない。
この耳や体調はどうしたら戻るのかわからなくて、助けを求めるように恭治を見た。
「ちょっと、触るぞ」
傍らに腰を下ろした恭治は、いつものゆるい雰囲気をなくし真剣そのもので、状況を見極めようとしているようだった。
黒縁眼鏡の奥で、鋭い目が向けられると、じわっと肌が熱くなる。
大きな手が変化した耳に触れた瞬間、甘い電流が蜜の背筋に走る。
「ひゃっ」
「っ」
思わず出た間抜けな声が恥ずかしくて、すぐ口を押さえると、恭治はすぐに手を引いた。
「えっ……あ、ごめ……なんか……」
「いや、いい。俺が悪かった」
なぜ恭治も謝るのかわからない。
けれど、恭治に触れられた耳は彼から熱を吸い取ったようにジンジンとして、下肢が脈打った。体内に疼くような衝動と熱が溜まっていく。その感覚に、蜜は恥ずかしくて唇を噛んだ。
「苦しいか?」
「うっ……ン」
気遣わしげに、今度はそっと頬に触れられる。ひんやりとした手が気持ちいいのに、また淡い快感を覚えてしまい、鼻から息が漏れてしまう。
鬱陶しい熱が、蜜の体をおかしくさせているのだ。
そう思いたかった。だってそうじゃないと、この反応はおかしい。
「ぁ……うう……ン」
冷たい手の甲が頬を撫で、額に触れる。声が我慢できない。
気づけば蜜は全身にじっとりと汗をかいていて、彼がそれを拭ってくれたんだと気づいた。けれど、触れられる度に体は、貪欲にその刺激を快感に変えていく。
もどかしくて、もっとちゃんと触られたくて、どうにかなりそう。
「きょ、……きょうじ、くん」
指先が震える手で、彼の白衣の袖をつんと引っ張った。
息があがって苦しい。ごろりと仰向けになって、もう片方の手で自分のシャツをぎゅっと掴む。
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