5人が本棚に入れています
本棚に追加
第三十五章 衝撃の出会い
“愛しているのかもしれないな。”
滝川は、林と姉のあゆみの顔を浮かべながらそう思った。
何故報われない相手ばかり想う羽目になるのか。
珍しくため息をついた彼は、
バーテンの勧めるままにお代わりを頼む。
「遅いな、林。」
そう思いながら
気が付くと30分ばかり待ち合わせの時間を過ぎていた。
林は時間を守る男だ。
何かあったのだろうか?と心配になった。
その途端、隣に誰かが腰掛ける気配がして
滝川は振り向く。
林か?と思っていたら全く違う。
隣に掛けたのは、長い黒髪の女だった。
「姉さん?」
思わず口にしたセリフに自分で驚いた。
まさか、そんな。
しかし、その姿は彼の姉、あゆみそのものだった。
彼は、抜けるように白い肌や、エキゾチックな黒い瞳
豊かな胸元に吸い寄せられるように釘付けになる。
彼女が口許だけで笑うと、雷に打たれたような衝撃が走る。
「隼人さん?」
彼女が呼び掛ける声、それは確かに姉の声だった。
「姉さんなの?」
あの男と暮らしだしてからは
夜中に一人で出歩くことなど無くなったはずだが。
彼の問いかけには何も返さず、彼女は満面の笑みを浮かべた。
その途端、滝川の脳裏から
遅れている林の事は消えてしまい
目の前の女で頭が一杯になる。
彼は、呆けたように女を見つめていた。
一体どれくらいそうしていただろうか。
女が店を出る頃、滝川は吸い寄せられるように後をついていった。
シリコンドールは眠らない act2隼人 <前編>完
最初のコメントを投稿しよう!