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~序章~
林公平は、真夜中にリビングのソファに腰掛けながら
壁の時計を見上げていた。
時計の針はちょうど12時を指している。
彼は瞳を閉じて、回想していた。
あれからちょうど1年。
滝川が失踪し、
腐乱死体となって発見されてから
丸1年が経過した。
滝川の義理の兄が
警察の幹部だったおかげで大々的に報道はされなかったものの
サラリーマンの謎の失踪と、実の姉への横恋慕は
ショッキングだったらしく
週刊誌の格好のネタになった。
美咲と息子のスバルの許にも
週刊誌の記者が毎日のようにやって
あけすけな質問をしていったが、彼女は強かった。
息子を守るために、笑顔で乗り切ったのだ。
明日は林と美咲の結婚式だ。
ずっと想い続けていた彼女との結婚は、
彼にとって夢のようだった。
スバルも、彼に懐いている。
林は社内でも子煩悩だと評判だ。
事件が落ち着いてからは、育児雑誌からの取材も受けていた。
子育てと仕事を両立する男性はまだ珍しい。
それが一般企業の取締役ならば、なおさらだった。
寝室で、美咲とスバルが
寝息を立てている音が聞こえる。
林はゆっくりと寝室の扉を開けて、二人の寝顔を確認した後
起こさないようにそっと扉を閉めた。
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