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第三十三章 滝川の独白
滝川は林に呼び出され
スナックで一人彼を待っていた。
林は彼の後輩で、なおかつ数少ない友人の一人だった。
何故過去形かと言うと
林が滝川の妻美咲と通じあい、妊娠させたのだ。
そして、あげくに彼女と離婚するよう迫ってきたからなのだが、
それは体のいい理由にすぎなかった。
本当は自分のせいだ。
滝川はそう理解していた。
愛してもいない女と結婚したくせに、
離婚するよう迫られる前に彼女の父親に先手を打ち、
二人の仲を引き裂こうとしたからである。
林はそんな滝川を恨んでいるはずだ。
“あの二人だけ幸せになられてたまるか。”
それが、滝川の本音だった。
自分は想う人とは結ばれることは無いのに。
あの二人が結ばれるのが我慢ならない。
別に美咲に惚れているわけではない。
だったら友人なら
本当は二人を祝福するのが筋、なのだろう。
だが、例えどんなに反社会的だとしても
姉ばかりではなく
林が他の誰かのものになるのは我慢できなかった。
滝川は美咲に嫉妬していたが
そんなことを林に言っても
軽蔑されるだけだ。とも思っていた。
いや、何を考えているのだ俺は。
どのみち林には軽蔑されているのだ、
それは間違いないはずだった。
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