第三十四章 滝川の独白 その2

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第三十四章 滝川の独白 その2

昔から、人に興味を持ったり 好きになったりすることはほとんどない男、それが滝川だ。 彼の美しい顔に魅せられる女は数多くいたが、 彼は自分の姉以外の女には興味がなかった。 そんな彼が姉以外に初めて興味を持ったのが 林公平と言う男だった。 明るさの影に苦労を滲ませている男だが 明るすぎることも、うるさいこともない。 彼といると安心できた。 この感情が何なのか分からないが、 滝川は林とつるんでいる時が幸せだった。 だが社内レクレーションの時、 林が宇田川専務の娘に一目惚れした事を知ると 彼の胸の中に黒いもやが生まれた。 林の人柄なら、大抵の女は心惹かれる事は分かっていた。 だから滝川はどうしても林を彼女に近づけたくなくて、 専務に自ら見合いの話を持ち込んだのだ。 それがこんなに憂鬱な結果を生むとは 思ってもいなかったが。 林の気持ちを知らないふりして見合いをし、 婚約にこぎ着けるまでは、とことん感じの良い男を演じ続けた。 結納を終えたあと、すぐに化けの皮は剥がれたが、 美咲に冷たくすれば、林は気にするだろう。と思っていた。 “彼女を通じて自分の事を見て欲しい。” そう彼は望んでいた。 憎しみは、愛情と同じ温度を持つ感情である。 ならば愛を得られない代わりに、 憎しみでいいから欲しかった。
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