一人の画家の場合

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 この店の主人と来たら、なんともつかみどころのない、ウナギみたいな男で、『何故レストランを始めたか』と聞けば『流れ上そうなった』。 『お店のこだわりは』と聞けば『特に無い』。あの絵を買った理由は『何となく良かった』と来たもんだ。 私は横で手伝っている主人の奥さんらしい女性を見つけたので、ちょっと意地悪だが 「じゃあ、その奥さんとも何となく良かったから結婚したのかい」 と聞くと 「そうそう、その通りですよ」 とやられた。しかしどうにも憎めない男で私もこの男が『何となく気に入った』ので、ちょくちょく魚の絵を見に来がてらここに来るようになった。  しかし問題はニジマスが公園に来ないことだ。おばさんやら爺さんなんぞの描く絵など、大して見る気にもならないので、私は暇になると決まって例のレストランで魚を見ながらウナギ店長と話をしていた。  するとある日とてもうれしい話を聞くことになった。店長が言うには、一人の女の子が来て突然どうしても私の描いた魚の絵が欲しいと言って成行き上この店で働くことになり、いつかその女の子がこの魚に代わる絵を持って来たら譲るという約束をしたという。  私はそんなに自分の絵が欲しいと言ってくれる人がいることが嬉しかった。私は店長に聞いた。 「それはニジマスみたいな女の子じゃないかね?」 すると店長が答えた     
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