サラリーマン横田勉の場合

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現金で買うだろうと思ったが、ずっとあたふたしているようだったので声をかけたところカードを入れている財布ごと忘れてきたのだそうだ。私は 「往復分と何かあったらこまるから」 と彼女に三千円をあげた。彼女は 「ありがとうございます。絶対にお店で返します」 と言って走っていった。私は中学生か高校生かの様に、一日中その時のことばかり思い出していた。  そんな訳で、ちょっと卑怯だが彼女がお店でお金を返しに来た時に何とかデートに誘いだした。私は柄にも無くちょっと高級なレストランやらバーやらをピックアップしておいた。 彼女と駅で待ち合わせをして二、三店雑貨屋なんかを見てから予約しておいたフレンチのレストランに行った。 しかし、まぁお察しの通り、元がそんなこじゃれたレストランなんぞに行きなれていない者が背伸びをしてそんな所に行ってみたところで、うまく振舞える訳もなく二人して緊張しながらディナーをとった。  これは失敗したと思っていたのだが予想を裏切って彼女から 「もう一軒行こう」 と誘われた。何やら彼女が前から行ってみたかったお店があるらしいのだが一人では行きにくいんだそうだ。 ところがどうしてそのお店がこれまたえらいお洒落なバーで入ったはいいものの何を頼んでいいのかも分からないという始末だった。     
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