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彼自身はバイクを廊下に乗り入れたり、先生の車にスプレー缶で現代アートをこしらえたりはしない。本物ヤンキーの後ろにくっついて、本物ヤンキーの威を借りて、することと言えば、気弱な生徒を捕まえてはからかったり凄んでみたり、トイレの個室を取引場所に、他の取り巻き仲間といかがわしい雑誌をコソコソと融通し合ったりといった具合だ。
後戻りできない非行には走らない彼は、本物ヤンキーのような金髪にはしない。微妙な髪色の変化をもって自身をヤンチャ系の人間だと誇示している。
誰が言い始めたのかは知らないけれど、そんな彼には密かに二つ名が付くこととなった。【マイルドヤンキー】と人は呼ぶ。流行語大賞にノミネート実績のあるこの名称にはきちんと定義があるようで、調べてみたら、三嶽君を言い表すのに当たらずとも遠からずと言えた。
マイルドとはいえ背後にいるのは本物ヤンキーだ。ひとたび目を付けられれば、魔の手ならぬ荒くれ猿の手が私に及ぶかもしれない。
波風立てぬよう息をひそめ、文学少女として日々を過ごしている私が関わっていい相手ではない。侮るなかれ、マイルドヤンキー三獄。
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