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サキちゃんと桃田部長の仲については探るまでもなく耳に入ってきた。
「小耳に挟んだだけで」と言うと、三嶽君は嬉しそうに長机に身を乗り出した。
「じゃあ、桃田部長が薄葉さんにフラれたってのも?」
それだって光の速さで伝わってきた。
薄葉さん。この学校でその名前を知らない人はいない。一点の汚れもなく完成された女性で、一際目立つのに決して群れを作らない孤高の女帝。そんな薄葉さんに想いを寄せることすら不義なのに、あろうことか言い寄るなんて、仏ですら三回お許しルールを忘れて鬼の形相になる所業だ。
大変不敬なことだけれど、薄葉さんについては下世話な話も密かに囁かれた。学年主任のおじさん先生と腕を組んで歩いているのを見かけたとか、お姉さんの彼氏と隠れて付き合っているとか。どれも嘘に決まっている。
それにしても、薄葉さんからサキちゃんまでってストライクゾーンが広いな。それって野球部としてどうなの、桃田部長。
「それよりも、私に用があって来たんでしょう」
私の情報ネットワークを詮索される前に話題を変えたかった。
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