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マイルドヤンキー・ゴシップ
吉沢さんはいつも放課後の図書室に一人で居座っている。完全下校時刻になるまで読書したり宿題をしたりしている。
豊かな睫毛は手元の本に影を落として、きりりと光を放つ眼に気品を添える。深窓の令嬢よろしく、凛と背筋を伸ばし、時折耳にかかる黒髪をかきあげながら読書に耽る吉沢さんこと、私は、芸術品のごとし美少年が、艶めかしく絡み合う甘美な物語を心ゆくまで味わっていた。至極のひと時である。
ガラガラと引き戸を開ける音で、静寂と平穏は破られた。
見回りの先生だろうか。三時に退勤する司書の先生ではないはずだから。放課後の図書室に訪れる生徒は、特別に鍵を貸し出されている私以外にはいない。
床を打つ上履きの音が近付いてくる。私に向かって。
「あ、いた」
私の姿を認めて足を止めたのは、同じクラスの三獄君だった。
三獄君とのエンカウントは私にとって一大事と言えた。
彼はヤンチャ系生徒の一味なのだ。否、ヤンキーの取り巻きとか、金魚のフンとか言った方が正しいかもしれない。
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