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第8話 一日目 その8
いやはや、こんなことになろうとは……マスターに助け船を求めたのに無駄だった。
「文豪も弟子を持つ身分になるとは、立派になったものだな。それに人助けだと思えばいいんじゃないの?」
こんなふうに、茶化したりそそのかしたりで話にならない。
「文豪さん、もてるのもほどほどにしたら?」
トモちゃんまでも、何か訳の分からない嫌味というかなんていうのか、結構冷やかな態度で。まあ、やきもちならそれなりにそれでも良いのだけれど、そんなつっけんどんなことを言い出して横を向いてしまう始末である。
一方、北瑠という名の女性の方は、『私を小説家に連れてって』などとほざいているが、その表現からして小説家には向いていないと思うんだけどな、俺は。まあ、『私を小説家という高みにまで引き上げてほしい』という意味での『連れてって』と解釈することもできなくはないが、そんな解説のいるような言葉では。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。だいたい君は小説を書いたことはあるの?」
「ええ。読書感想文くらいなら、何度も経験があります」
小説と訊かれて、何の躊躇もなく読書感想文と答えている。俺は耳を疑った。
「えっ、読書感想文? 読書感想文を経験といわれても」
やっぱり『困ったちゃん』だったのか。自信満々で読書感想文と小説を、一緒くたにしているようじゃ……。
ここで俺のなすべきことは、いったい何なのか? やっぱりきっぱりさっぱりと断わることだろう。それが大人の対応というものだ。ここはビシッと厳しい現実を、わからせてあげようではないか。
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