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第9話 一日目 その9
「小説家というものは、君が考えているような甘いものじゃないんだよ」
そう言って牽制しながら次を言おうとすると、逆に反撃されてしまった。
「だって、先生でも小説家になれたのでしょう? それなら私だって、なってもおかしくないじゃないですか」
「……」
一番痛いところを突かれてしまった。それだけは言っちゃあ、おしまいだろう? そりゃあ俺だって、『俺は小説家で偉いんだぞ』とかは全然思っていません。でもね、それなりに引け目を感じながらも健気に小説家として、いやそこまでなっていなくても小説家というものを目指しているんです。読書感想文しか書いたことのないような、お前にだけは言われたくないんだよ。
小説家というものがどれほど大変な職業なのかも知らず、気楽にそんなことを言うようなやつは、何があっても絶対に弟子になんかするものか。そう心に誓っていると、そんな俺に肩透かしをくらわすようなことを言い出した。
「先生。先生のお家を教えて下さい。弟子が先生のお家を知らなかったら、教えを請いに行くことはできませんから」
いったい誰が弟子入りを許可すると言ったのだ。まだ誰もそんな大それたことは言っていないはずだ。「おいおい、俺はまだ弟子になんかするとは言っていないぞ」
内心の腹立ちを抑えながらも、紳士らしく鷹揚にそう言ってやった。なんせ俺は大人だからな。理性も分別も備わった紳士は、二十歳そこそこの小娘とは違うんだ。どうだ、まいったか。
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