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第5話 一日目 その5
トモちゃんは全体的にほっそりと、出るところは少し控えめに出ていて、引っ込むところは十分に引っ込んでいるという、いわゆるモデル体型だった。要するに何を着ても似合ってしまうコスプレ体型なのだ。もちろんオレンジのエプロンは、似合いすぎて困ってしまう位である。
それでもほんの少し勿体なく感じるのは、身長が約一六五センチとファッションモデルになるにはやや不足していて、そのためかどうかは知らないが、パリコレからはお声が掛らなかったようだ。当然お声が掛っていれば、今頃こんなところにいるはずはないのだけれど。
身長以外のルックスやスタイルなら、文句なしに合格だと俺は思っている。
このトモちゃん目当ての男性常連客が随分と多いのだが、何を隠そう俺もその中の一人なのだ。
「今日は女性同伴ですか? 珍しいですね、文豪さん」
「いよっ、文豪。さすがに小説家はモテモテだね」
ランチタイムも過ぎて暇な時間帯だったのか、早速トモちゃんとマスターが俺にそんな軽口をかけてきた。常連客ならではのことである。
「トモちゃんもマスターも、冷やかさないでよ。それにその呼び方も。俺の名前は文豪じゃなくて文悟なんですから。後ろを必要以上に伸ばさないでよ」
二人とも、俺が小説家の真似事をしていることと、名前の本田文悟を引っかけて『文豪』などと呼ぶが、何か揶揄されているようであまり好きじゃない。でもまあ、周りの人にはそんな意地悪な意図はなく、単に親しみを込めて言っているだけというのは、ちゃんと理解しているつもりだ。
俺達がそんな他愛もない軽口を言い合っていると、何故かその女性の目がキラリと光ったように感じられた。
「小説家さんだったのですか……」
誰に言うでもなく、独り言のようにそう呟くのが耳に入ってきた。
マスターは小説家などと大げさに言ってくれるが、俺はまだワナビに少し産毛の生えた程度のヒヨッコである。
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