第6話  一日目 その6

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第6話  一日目 その6

 親から『三十にもなって、いつまで夢を追っているのだ』と責められながらも、マイナーな新人賞にはなんとか入選を果たすことができ、本もようやく何冊かを出版するまでにこぎつけた。  しかしまだまだ売れない新人で、それだけでは食べていくことはできず、小説以外でライターのアルバイトなどをやりながら、他の新人賞への作品を執筆している。  例え新人賞に入選して本が出版されたとしても、初版は三千冊から始めるというのが一般的だった。印税は単行本でも一冊当たり百円程度のもので、総額は三十万円位にしかならないのである。文庫本なら更に少なく、十万円から十五万円位。  それだけではとても生活できるものではない。もちろん大幅に増刷されることがあれば、その分収入が増えることにはなるのだが――俺にとっての現実は、せいぜい数回程度の増刷が限界だった。  仮に増刷に増刷を重ねることができ、単行本で十万冊も出版されることがあったとするならば、それだけで一千万円近い印税収入にはなるのだろうけれど。売れない無名な新人作家にとって、それは夢のまた夢――そう、到底叶わぬ儚い夢なのかも知れない。  結局、本業の傍らライターのアルバイトなどに精を出すしかないのである。時々どっちが本業なのかと、自分自身でも疑問に思ってしまうこともあるのだが。それが売れない無名な新人作家にとっての現実だった。  いくら売れない無名な新人作家でも、一度本を出版してしまうと、すでにプロと看做されるのが業界の常識である。それにもかかわらず新人賞によっては、プロ・アマ問わずというところが意外と多いのだ。表現は悪いけれど、売れない新人作家の再生工場みたいなものだな。
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