第一章/五.樊城を打ち捨てよ

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第一章/五.樊城を打ち捨てよ

「趙家軍は、襄陽ではなく(はん)(じょう)に帰参せよ! (はく)(れつ)将軍は樊城にいる」  伝令がもたらした趙淳の指示に従って、趙萬年たち分隊五百騎と魏家軍の先行部隊は樊城に向かった。  樊城は、漢江の北岸に位置する城市だ。南岸の襄陽と対を為す出城だが、しかし、今は樊城から脱出する人と物の列が引きも切らない。  あちこちに(かがり)()が焚かれ、昼間のように明るかった。魚油の匂いが鼻を刺す。異様に明るく照らされた夜の街並みは、人の心をかえって暗く掻き乱す。  趙萬年は門外に兵を待機させることにして、馬を降りて兵に預けた。樊城に入るのは、趙萬年と趙(こう)と王才、魏家軍の将官が三名だ。  城内は人でごった返していた。 「すげえ人混みだな」  目を見張る趙萬年に、「どいたどいた!」と荒っぽい声が掛かる。商人が()()に荷車を引かせ、城門を出ようとするところだ。  趙滉が趙萬年の肩をつかんで引き、己の背に(かば)った。 「はぐれるなよ」 「はぐれねえよ! オレ、そこまで小さくねえって」 「私の後ろにいるほうが歩きやすいだろう」 「それは否定しないけど」     
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