第一章/三.先駆けを務めよ

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第一章/三.先駆けを務めよ

 神馬坡を預かる総勢四千の()(ゆう)(りょう)の軍団は、ただ一方的に攻められているわけではなかった。兵力の一部が土塁の外へ突出し、金軍の包囲を打ち破ろうと奮戦している。  金軍は歩兵ばかりだ。それも弩をあてがわれただけの下っ端であるらしく、矛や刀を振るう魏家軍の武勇を前にすると、為す(すべ)もなくわらわらと逃げ散る。 「あんなもん、オレたちの敵じゃねえ」  馬上でつぶやいた趙萬年は槍を弓に持ち替え、弓に()を番えた。一瞬のうちに狙いを定め、射る。こめかみに箭を受けた敵兵が倒れる。  (いかだ)をつないだ浮き橋を駆けながらの離れ(わざ)だ。身の軽さも騎射の正確さも、趙萬年は趙家軍の誰より勝る。  趙萬年はさらに箭を番えて射る、射る、射る。魏家軍に突き崩されつつある金軍の側面を襲った格好だ。逃げ惑う敵兵が倒れた者に足を取られて転び、後続がまたそれにつまずいて転んで折り重なる。 「趙家軍の御出ましだッ!」  叫ぶ趙萬年の声に、敵兵の悲鳴がいくつもかぶさる。 「敵襲、敵襲!」  趙萬年に金軍の訛りは聞き分けられないが、おそらくそう言った。     
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