第一章/三.先駆けを務めよ

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 金軍に動揺が広がっている。神馬坡の土塁へと飛ぶ箭の雨が急激に勢いを弱めた。敵の弱腰を見て取った魏家軍が()(かく)の怒号を上げ、ひときわ激しい攻勢に転ずる。 「そうだ。引っ繰り返そうぜ!」  趙家軍五百騎の先頭で、趙萬年も呼応して(ほう)(こう)する。  引きつった顔でこちらに弩を向ける敵兵がいる。その箭が放たれる前に、趙萬年は敵兵の眉間を射抜く。  趙萬年はたちまち神馬坡の中洲に上陸した。既に弓から槍に持ち替えている。  戦陣には敵味方の箭が乱れ飛ぶが、趙萬年は構わず駆け抜け、槍を振るう。何人を蹴散らし、斬り捨て、踏み付けたか、いちいち数えてなどいられない。  王才が趙萬年のすぐ後ろに付き、趙家軍の旗を背負って声を張り上げる。 「趙家軍、推参! 死にてえやつは掛かってこい!」  王才も槍を使うが、趙萬年のそれより長大で重厚な()(もの)だ。ぶん、と唸った槍が敵兵の頭を(かぶと)ごと叩き割る。血と(のう)漿(しょう)が飛び散る。  ずば抜けた剛力の王才が、たかが十六歳の少年とあなどられることは、まずない。並の大丈夫(おとなのおとこ)よりも体が大きい。(ひげ)だけはまだ(うぶ)()のように薄いが、精悍な顔つきはもはや子供のものではない。     
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