第一章/三.先駆けを務めよ

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「明日の朝、太陽が昇るまでのうちに襄陽に御入りください。籠城はいつまでになると申せません。ありったけの食糧と物資を御持ちいただければ心強い。よろしく御願いします」  魏友諒は趙淳より三つばかり年上というから三十代半ばのはずだが、趙萬年の目には、もっと老けているように見えた。眉間のしわが深く、それを強調するように額が後退している。頭頂に結った髪も薄そうだ。  趙萬年がじろじろと眺めていると、視線が気になったのか、魏友諒は趙萬年のほうを向いていくらか表情を緩めた。 「阿萬、大きくなったな。儂を覚えているか?」 「十歳の頃に何度か会った。それと、大哥(あにき)がたまに手紙を送っていたのを知ってる」 「先頭で浮き橋を渡ってくるのを一目見て、ああ阿萬が来たとわかったぞ。見事な先駆けだった。体は小さくとも、胆力は人一倍だな」 「体が小さいとか、余計な一言だ。オレ、弓も槍も短兵も、趙家軍の中では五指に入る腕なんだぜ。特に騎射は誰にも負けねえ」 「そうか、これは失礼した。隊を預かり、兵士の命を背負う身だったな。戦場ではもう一人前だ」  魏友諒はそう言いつつも、口調はまだ子供を相手にするかのように柔らかい。むくれる趙萬年の隣で、頭一つ大きい王才が、にんまりと笑った。     
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