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第一章/四.水の要衝を確保せよ
南船北馬、という言葉がある。
今を遡ること一千三百年余り前、学問好きで変わり者の王族、劉安が識者を集めて編纂させた『淮南子』に由来する言葉だ。
中華の国土は淮河を境として、南北で様子を変える。
南は川が多い。豊富な水は複雑な形をして流れ、山野を潤す。北は平原だ。黄河を擁し、その中流域である中原には沃野が広がる。
中華を取り巻く異民族もまた、北に棲む者と南に棲む者で得意とするところが異なる。南の越人にとって船は足だ。北の胡人は馬と一心同体と言ってよい。『淮南子』に書かれた南船北馬とは、こうした異民族の移動手段を示す表現だ。
時が下るにつれ、中華の民である漢族も、異民族と同じ移動手段を使うようになった。南では船を用い、北では馬に乗る。そうすると、徒歩よりはるかに遠くまで行けるし、重い荷を運ぶこともできる。
軍を興すときもまた同様だ。南を攻めるには水軍を造って船で川を行かねばならないし、北の戦には機動力の高い騎兵をいかに使うかが勝敗の鍵となる。
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