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趙萬年は齢十八の若さだが、行軍の足の速さは趙家軍でも随一だ。同じく素早さに定評のある趙滉が麾下を率い、趙萬年の隊に遅れず付いていく。
槍を掲げ、敵陣に突っ込む。趙萬年の勢いに当てられ、敵は怯む。
立ちはだかったつもりか立ちすくんでいるのか、一騎が趙萬年の進路を阻んだ。
「邪魔だッ!」
駆け付けざまに槍を繰り出す。穂先は正確に鎧甲の継ぎ目を突き、敵兵の喉を裂いた。血が噴き上がる。
落命した敵兵は馬ごと地面にくずおれる。それを踏み付けながら、趙萬年を先頭とする趙家軍の分隊五百騎が敵陣を突破する。
馬蹄の響きの中、背後で戦闘が始まった気配がある。趙萬年は振り返らない。朗々としてよく通る趙淳の声が聞こえた。趙淳と共に残る兵は五百騎。いずれも精鋭だ。こんなところで雑兵に破れたりなどしない。
行く手に橋がある。筏を並べて鎖でつなげ、漢江の北岸と中洲とを結ぶ橋だ。丘のように小高い中洲の頂に神馬坡という砦があり、人の背丈に倍する高さの土塁で囲われている。
中洲には敵軍が上陸し、土塁に群がって弩で箭を射掛けている。きらきらと尾を引いて飛ぶのは火箭だ。箭柄に搭載された火薬が爆発すれば、炎が撒き散らされる。
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