第一章/四.水の要衝を確保せよ

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 趙萬年が素早く蔵から持ってきた地図は、襄陽を中心に三十里(約十六.八公里(キロメートル))四方を描いたものだ。この範囲では、漢江は西から流れてきて、襄陽の傍を過ぎてすぐに南へと折れる。  襄陽は、漢江の南岸に位置する。一里(約五百六十一.一(メートル))の川幅を持つ漢江を隔てて、北に樊城がある。襄陽と樊城の間には浮き橋が架かり、付近には多数の桟橋が設けられて幾千の船が係留されている。  趙淳のごつごつとして長い指が、紙の上を流れる漢江をたどった。 「漢江は人間に対して不親切な川だと、襄陽の連中が言っていたな」 「ああ、覚えてる。川岸は大抵、断崖絶壁で近寄れねえ。航行するにも横切って渡るにも、思わぬところに早瀬や浅瀬があって、すぐに船が引っ繰り返される。夏にはつながってる川や水路が、冬には(みず)(かさ)が減って地中に隠れたりもする」 「漢江沿いに流れを下って初めに出会う、最も安全で最も大きな渡し場と港が襄陽と樊城だ。漢江を奪いたいなら、襄陽と樊城を手中に収めねえわけにはいかねえ」 「この間、講談で聴いた三國志の関羽の最期も、襄陽と樊城を巡る戦いだった。蜀漢と魏と呉が入り乱れて、あの場所を必ずつかんでおこうと争ったんだ」 「それと狙いを同じくする争いが、もうすぐ起こる。講談なんかじゃねえ本物の戦だ」     
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