第一章/五.樊城を打ち捨てよ

4/7
前へ
/471ページ
次へ
 趙淳は伝言を聞きながら、女の()で立ちを上から下まで観察していた。無理もない、と趙萬年は思う。趙家軍も魏家軍も、居合わせた者は皆、女の異装に目を奪われている。  女は、髪の結い方も服装も、腰に提げた剣と弩も、(すね)まで覆う革製の六合靴も、何もかもが男の装いだった。傷のある顔に化粧っ気はうかがえず、六合靴の足は巨大で、(てん)(そく)をした女の足の三倍もありそうだ。  完全に男の格好をしていてもなお、女は、匂い立つように女だった。年の頃は二十歳を二つ三つ過ぎたあたりだろう。並の男よりも大柄で顔に傷があることを除けば、ひどく美しい。  趙淳が咳払いをし、女に応えた。 「旅撥(はつ)(はつ)(かん)からの伝言、確かに聞き届けた。武器庫で作業していた者は穀物庫に回るようにと、この趙伯洌からの指示を旅撥発官に伝えてくれ」 「かしこまりました。兄に伝えます」 「兄だと?」 「はい。あたしは(りょ)(すい)。旅世雄の妹です。あたしは見ての通りの大女で、力も強いものですから、日頃から船乗りの兄の手伝いをしています。(すい)(えい)、と(あざな)で呼んでもらえたら嬉しいです。御見知りおきを」 「了解した、翠瑛。今、俺たちには味方が足りねえ。働ける者にはどんどん働いてもらいてえんだ。よろしく頼む」     
/471ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加