第一章/五.樊城を打ち捨てよ

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 旅翠が笑み崩れた。無邪気な少女のような笑顔に、趙萬年は思わず見惚れた。 「伯洌将軍は正直ですね。女が首を突っ込むなと()ねのけるような男なら、人前でぶん殴ってやろうと考えてたんですけど」 「そいつは助かった。襄陽の女は肝っ玉が据わっていると聞いてはいたが、おまえさんは一際とんでもないようだな。花木蘭や平陽公主に勝るとも劣らぬ女将軍と御見受けする。頼もしいもんだ」 「御役に立ってみせますとも。生まれ育った襄陽を、あたしは絶対に敵の手に渡したりなんかしないんだから」  宣誓するように力強く言うと、旅翠は一礼して去った。  趙淳は、ほう、と息をついた。 「()(てん)()なんて言葉じゃ表し切れねえ女武人ってのは、そうそういるもんじゃねえはずなんだが。おい、阿萬」  急に呼ばれた趙萬年は我に返り、水から上がった犬のように、ぶるっと頭を振った。 「何だ、大哥(あにき)?」 「さっき言い付けた仕事、頼んだぞ」 「わかってる。今すぐ行ってくる」 「趙家軍と魏家軍を船着き場まで連れていったら、おまえは一足先に襄陽に渡って、城外から避難してきた民衆の交通整理を手伝え。庁舎に行けば、仕事はいくらでもあるはずだ」 「了解!」     
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