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土塁の内側からは濛々たる煙が上がり、薄青い冬空を覆わんばかりだった。空気に混じるいがらっぽさに、趙萬年は咳払いをした。ひりつくほどに喉が渇いている。
冬十一月七日、冷え込んでいる。にもかかわらず、馬上で槍を執る趙萬年は汗みずくだった。焦燥が内側から肌を焼き、寒さを感じる暇などない。
神馬坡は襄陽からわずか十里(約五.六公里)の距離にある。これほど近い場所にまで敵軍の侵入を許している。
今、神馬坡を包囲する兵力は五千を下るまい。
たった五百騎で突破できるだろうか。
いや、突破しなければならない。
神馬坡に閉じ込められた友軍を救い、近隣の武装勢力に声を掛け、できる限りの兵力を襄陽に集約する。それを為してようやく、趙萬年たち、宋国防衛の任を担った襄陽勢の兵力は一万に届く。
対する敵国、女真族の金がそろえた軍勢は、実に五十万を号している。十一月に入って数日のうちに、襄陽が管轄する国境地帯の城市、均州、棗陽、光化が相次いで落とされた。
襄陽は必ず守らなければならない。宋は、襄陽を落とされれば湖北の要を失い、湖北を奪われれば短期間のうちに国土の全てを金に呑まれる危険性がある。
もはや一刻の猶予もない。
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