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「この場所は美しい。杜甫に李白に孟浩然、唐の詩人がこぞって誉めたのもよくわかる。宋の詩人では、我らが金国のことが大嫌いな陸游も、漢江の美しさを詩に詠んでいる。漢族の彼らが愛でる景色を、異民族たる私も全く同じように美しいと感じるのだ。面白いことだな」
道僧は独り言ちた。
眼下を流れる漢江の水は澄み、起き抜けの朝日に照らされて輝いている。山は常緑。どこからか鳥の羽ばたきと鳴き声が聞こえてくる。
下流を望めば、いくつかの中洲の向こう側に、南岸の襄陽と北岸の樊城が静かに向かい合っている。
漢族の建てるまちは四角い。それが背の高い城壁にぴしりと囲まれているさまは整然として、いかにも取っ付きがたい。
何千年も昔に初めてあのようなまちを建てようと思い付いた誰かは一体どんな思考の持ち主だったのだろうか、と道僧は思う。
まちの造りに限らない。文字だとか学問体系だとか歴史書だとか、もっと砕けたところで言えば、何百種類もの調理法をそろえた料理だとか、漢族が持つ文化や習俗は何もかもが膨大で圧倒的だ。学んでも学んでも、全く以て追い付かない。
道僧は、女真族でも十指に入る名家、納合家の嫡子だ。年は十八。
久方ぶりの、ただ一人での騎行だった。従軍してからというもの、父であり上司でもある吾也に付いて回らねばならず、そうでないときも副官や従者が常にそばにいる。息苦しくてかなわない。
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