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口答えを重ねた道僧に、吾也は再び槍を振り下ろした。一打目と同じ箇所だった。
身じろぎ一つでもすれば折檻が激しくなることを、道僧は経験的に知っている。吾也の左右の者が時を見計らって止めに入るまで、道僧は黙って耐えた。
ふと、人馬が近付いてくる気配がある。馬蹄の響きは二つ。女真族の騎行に特有の軽やかな足取りだ。
道僧は振り返って待った。果たして、思い描いた通りの相手が木立の陰から姿を見せた。
「ああ、ここにいたのね」
「多保真」
「探したわ。わたしにまで黙って寨を抜け出すこともないでしょう?」
多保真は鈴を転がすような声で抗議した。ただ、本当に怒っているわけではないらしく、白く美しい顔には笑みがある。
道僧は、多保真につられて頬を緩めた。蒲察家の姫武人と名高い多保真は、道僧の許嫁である。
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