第一章/七.イストワール

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第一章/七.イストワール

 夜明けの木陰の下にあって、多保真はおのずから輝きを発するかのようだ。  羊の毛から成る(せん)の上着は、鮮やかな赤色。乗馬に適するよう身頃は引き締まり、(すそ)は正面と両脇に切れ目が入った形をしている。その上着にも帯にも、すらりとした両脚を包む?《こ》や履き口の浅い靴にも、さりげなくも見事な()(しゅう)(ほどこ)されている。  多保真は馬を進め、透き通るように光る朝日の中へと歩み出た。  着物の赤色に映える白い肌と、騎行のためにうっすらと上気した頬。しなやかな柳眉と濡れたような瞳は気品と野性を兼ね備え、森の王たる女真族の貴種にふさわしい美貌だ、との呼び声が高い。  道僧にとって、同い年の多保真は幼なじみの一人だった。ただし、あまりにも貴い家柄の御嬢様で、おいそれと近寄ってはならない相手だった。  多保真の家、蒲察は、王妃の家系として知られる。王の家系である(かん)(がん)家の婚家として大昔から定められているのだ。     
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