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「わたし自身、皆の前から姿を消したくなったの。だって、いついかなるときにも護衛や従者や女中が付きまとっているのよ。こんな有り様では、中都で過ごすのと大差ないわ」
「それこそ当たり前だろう。君は、あの蒲察家の御令嬢だ。当世の女真族で一番、ひいては金国で一番の佳人であるとも噂される。護衛がなくては危うくて仕方がない」
「ありがとう。こんなふうに率直な言い方をしてくれるのは、道僧だけよ。まわりの皆は違う。大事にしているというより、腫れ物を扱うような態度だと感じてしまう」
「女だてらに剣や刀を習い、戦に付き従いなどするからだ。私が帰るまで、中都でおとなしく健やかに待っていてくれたらよかったのに」
多保真は、ため息をつくような笑い方をした。
「わたしを危うい存在だと言いながら、護身術を磨くことに異議を唱える人ばかり。わたしは、ただ守られるだけの御嬢様ではいたくないのに」
「そういうところが危ういのだ。何にでも首を突っ込もうとする」
「あら、女真族の女は、勇気を出すべきときには危険を顧みず困難に飛び込むものよ。昔、父祖の地にそびえる霊山、長白山が炎の悪魔に侵されて噴火したとき、勇気ある乙女が氷柱の剣を抱いて火口に飛び込み、悪魔を打ち倒して平穏を取り戻した」
「伝説の時代の出来事だ。現在の、現実の戦をそれと同等に扱うのは、話が飛躍している」
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