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道僧が多保真に向き直り、さらに小言を垂れようとしたときだった。
「姉上、どちらにいらっしゃいますか?」
少し遠くから、多保真を呼ぶ声がある。くすくすと多保真は笑った。
「わたしの護衛がようやく追い付いたようね。徳寿、こちらよ!」
多保真の弟、蒲察徳寿も道僧の幼なじみだ。一つ年下で、十七歳。地位は生まれながらにして萬戸であり、この戦を終えて中都に戻れば、朝廷で何某かの役職を務めることが決まっている。
徳寿が白馬を歩ませて木立の向こうから現れた。姉とよく似た繊細な美貌には、ほっとしたような笑みが浮かんでいる。
「姉上、張り切りすぎです。僕まで置いてきぼりにするなんて、ひどいですよ」
「あなたがのんびりしすぎなのよ。生粋の女真族の男が馬術と弓術で女に敗れるようでは、面目が立たないのではなくて?」
「そんなことをおっしゃっては、女真族の騎兵隊の九割が顔を上げて外を歩けなくなってしまいます。姉上より馬と弓が共に優れる戦士など滅多におりません」
「その類まれな戦士の一人が、こちらにいらしてよ。わたし、このかたには武芸だけでなく、学問でも一つも及ばないの。悔しくてたまらないわ」
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