第一章/二.三千で五十万を迎え撃て

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 八歳の趙萬年は、二つばかり年下の少年、王才と共に、半ば崩れた馬小屋から発見された。馬は茶賊に連れ去られていたが、恐怖のあまり口も利けない子供が二人そこに隠れていることは気付かれずに済んだらしい。  趙萬年と王才は趙家軍で育つこととなった。武芸を教わり始めると、呆けるか泣きじゃくるかのどちらかだった二人は、みるみるうちに元気になった。  二人はまた文字の読み書きも教わった。王才は座学を嫌い、あまり真剣に書物を読まなかったが、趙萬年は熱心に勉強した。趙萬年が新しい文字を覚え、より正確な筆運びを身に付け、難しい書物を読破するたびに、趙淳がとても嬉しそうな顔をしたからだ。  趙萬年は、頼り甲斐があって明るく、誰にでも公平な趙淳が大好きだった。趙淳より五歳年下の趙滉は、きまじめでどこか影があり、子供の頃は得意ではなかった。趙滉と気兼ねなく話せるようになったのは、ここ二、三年のことだ。  ここ二、三年といえば、王才が急に生意気になった。以前は趙萬年を三哥(にいちゃん)と呼んでいたのに、今では年上の者たちと同じように、阿萬と呼ぶ。  阿萬とは、趙萬年の(あざな)ではない。「阿」を付けて呼ぶのは幼名だ。字は一人前の証として自ら名乗る。昔は成人の儀式で初めて字を授けられたらしい。そんなものは、今ではすたれている。少なくとも趙萬年のまわりでは、誰も儀式など執りおこなわない。     
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