第1章 プラスチック製のチェスセット

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数日前、私にも例の手紙が届き戦場へ駆り出されることになった。 街の駅から手紙に記載されている場所へと向かう、数々の他人達が皆同じような表情を並べて列になっている様子は私の心に少しの休憩と決意を抱かせてくれた。私は今から戦場へ行くのだ。 「命令があるまでここで待て。」 こう言い残したままなんの音沙汰もなく約30分が経った。戦場へ行くためのトラックの中。周りにはこれからの自分の運命に耐えきれず涙を流す奴もあれば、神に祈る者、くたびれた写真片手に妻子の名前を永遠と唱える者 様々な時の過ごし方が伺える。 私には祈るほどの神も、勇気を与えてくれるほどの愛しい人もいない。 何も持ち合わせてない私にとって今この時間は学校の授業中に余ってしまった時間と同様の価値しかない、つまり私は今必死になって暇つぶしを探していた。 何かすることは無いのか、その一心で狭いトラックの中を隅々まで見渡す、がこのトラックにあるのはタバコの吸殻と充満する憂鬱だけ。諦め自分の手のひらに描いてある手相をまじまじと見つめていた、それから20分程経って外から声が聞こえた。「手前の端に座っている2人、降りてこい。」 手前に座っていた若い青年1人と中年男性の一人にお呼びがかかった、若い青年は首にかけていたロザリオを握りしめて「神様……」と震えた声で言い残しトラックから出ていった。中年男性は出ていく最後まで子供のように大胆に泣いていた。出ていった後の座席には小さく折りたたんだ市松模様の箱が落ちていて、好奇心から箱を手に取るとカラカラと複数の小さな物が入っている音がした。箱はゴムバンドで固定されており簡単に開けることが出来た、中からは安っぽいプラスチック製のチェス駒が出てきた、まさかと思いゴムバンドを外した箱を見てみるとチェスボートだった。
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