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「ど、どこ行くの」  私はローファーをひっかけながら追いかけた。室伏さんは駅の方に向かって行く。あ、もしかしてカラオケボックスで練習、と思い浮かべて、頭を振った。普通に音楽室で練習すればいいことだ。  室伏さんは駅に向かい、改札を通って行く。え、電車乗るんだ。私も交通カードを急いで取り出して改札を通った。楽器ケースがごとごと改札にぶつかって焦る。その間に、室伏さんは三番ホームへ続く階段へ進んでいた。  電車の中は混んでいて、室伏さんと離れ離れになってしまった。だけどなんとか姿は見えているから見失わないようにする。何しろ私は降りる駅を知らないのだ。狭い車内では楽器は邪魔だった。人に当たらないように、注意しながら何度か持ち替える。二駅目で室伏さんは電車を降りた。 「ここ、何かあるの」  初めて降りる駅で、私はきょろきょろと周りを見渡した。普通の住宅街のように見える。 「これから先生のところに行く」 「先生? もしや仙人の家じゃないよね?」 「クラリネットの先生だよ」  それだけ言って、室伏さんはずんずん住宅街へ入って行った。クラリネットの先生? 室伏さん、誰かに習ってたんだ。  大きな家の前で立ち止まると、室伏さんは勝手に玄関を開けた。 「ちょ、人の家」  玄関には、いくつか靴が並んでいて、中には同じ学生っぽいローファーや運動靴もあった。  そして、クラリネットの音が聴こえていた。
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