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神様、私にやらせてください。ちゃんと頑張るから。やっぱりやりたいから。お願い。
走って学校まで戻ったときには、息が切れて頭がくらくらした。部活終わりの生徒たちに逆らって校舎に入って行く。叩きつけるように、ローファーをしまって上履きもはかずに、音楽室に向かった。
もう音はやんでいる。今日の練習は終わったのだろうか。からからと扉を開けると、あのおじさんの写真の前で、室伏さんが楽器の手入れをしていた。夕日に照らされたその姿が、天使か女神みたいに見える。
私はそっと音楽室の中に入った。教会に入るときみたいな、しんとした神聖な気持ちで。
「あ、三島さん。どうしたの?」
室伏さんは小首をかしげる。
神様、女神様。私は、残りの青春、音楽にかけることを誓います。他には何も望みません。だから、私にやらせてください。
「入部、させてほしいんだ」
女神に向かって私は言った。心の中で誓いを立てながら。こんな私でも、やらせてくれるなら、それだけでいい。
室伏さんは、無言のまま、楽器を置く。審判を待つ気分だった。室伏さんはそっと手をのばす。私がとまどっていると、両手をつかんでぎゅっと握った。
「ようこそ、吹奏楽部へ」
女神は、私の目の前でほほ笑んでいた。
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