3、はじめての部活時間

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「えっと、希望パートは?」 「クラリネットだそうです」  室伏さんが勝手に答える。 「うーん、今いっぱいだよねぇ」 「そうですね。それに、教える時間がないかも」 「そうか。じゃあコンクールまでは違うパートにしよう。いいかな?」  部長と室伏さんの間で会話が繰り広げられたあとで、最後にいいかな、と聞かれてもうなずくしかない。  部長はとんとんとん、と大股で音楽室の一番後ろまで移動する。私と室伏さんは、小走りでそのあとを追った。 「根本、ちょっといいか」  部長が声をかけたのは、太鼓だった。えっと私は部長と室伏さんを見比べる。 「何よ」  太鼓がしゃべった。唖然としていると、太鼓の影から眼鏡女子が立ち上がった。立ち上がってもだいぶ小柄だったから、しゃがんでいたら太鼓に隠れて見えなかったらしい。 「彼女、パーカスリーダーの根本」  部長から紹介されて、どうも、と頭を下げる。 「この子、今日から入部の二年生。えーと」 「三島です」  私が挨拶すると、部長が付け加える。 「クラリネット希望らしい」  眼鏡女子は無表情でこちらを見返す。眼鏡のふちがきらりと銀色に光ったような気がした。 「それで?」  眼鏡女子が部長に顔を向けて聞き返す。 「そう、それで、コンクールまではパーカスに入れてやってほしい」  なぜか部長はとぎれとぎれに、言いにくそうにそう言った。 「いつもそう!」  眼鏡女子、根本さんはそう叫んだ。 「パーカッションってそんなに簡単じゃないんだよ」 「分かってるよ、うん、分かってる」  部長もたじたじだ。 「だいたい、クラリネットのパートトップは?」 「あ、今日は休みなんです」  根本先輩の問いに、室伏さんがしょんぼり答えた。 「またぁ?」  吹奏楽部の中でも色々あるらしい。 「でも、人足りてないんだろ?」  部長の一言で、私の預かり先が決まった。コンクールっていうのが終わるまで、私はパーカッションパートというところに入ることになった。
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