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「えっと、希望パートは?」
「クラリネットだそうです」
室伏さんが勝手に答える。
「うーん、今いっぱいだよねぇ」
「そうですね。それに、教える時間がないかも」
「そうか。じゃあコンクールまでは違うパートにしよう。いいかな?」
部長と室伏さんの間で会話が繰り広げられたあとで、最後にいいかな、と聞かれてもうなずくしかない。
部長はとんとんとん、と大股で音楽室の一番後ろまで移動する。私と室伏さんは、小走りでそのあとを追った。
「根本、ちょっといいか」
部長が声をかけたのは、太鼓だった。えっと私は部長と室伏さんを見比べる。
「何よ」
太鼓がしゃべった。唖然としていると、太鼓の影から眼鏡女子が立ち上がった。立ち上がってもだいぶ小柄だったから、しゃがんでいたら太鼓に隠れて見えなかったらしい。
「彼女、パーカスリーダーの根本」
部長から紹介されて、どうも、と頭を下げる。
「この子、今日から入部の二年生。えーと」
「三島です」
私が挨拶すると、部長が付け加える。
「クラリネット希望らしい」
眼鏡女子は無表情でこちらを見返す。眼鏡のふちがきらりと銀色に光ったような気がした。
「それで?」
眼鏡女子が部長に顔を向けて聞き返す。
「そう、それで、コンクールまではパーカスに入れてやってほしい」
なぜか部長はとぎれとぎれに、言いにくそうにそう言った。
「いつもそう!」
眼鏡女子、根本さんはそう叫んだ。
「パーカッションってそんなに簡単じゃないんだよ」
「分かってるよ、うん、分かってる」
部長もたじたじだ。
「だいたい、クラリネットのパートトップは?」
「あ、今日は休みなんです」
根本先輩の問いに、室伏さんがしょんぼり答えた。
「またぁ?」
吹奏楽部の中でも色々あるらしい。
「でも、人足りてないんだろ?」
部長の一言で、私の預かり先が決まった。コンクールっていうのが終わるまで、私はパーカッションパートというところに入ることになった。
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