3、はじめての部活時間

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 楽譜にはいくつか列が書いてある。水色のマーカーペンを取り出して、さっそく線をひいた。記号が並んでいるところで、きっと太鼓を叩けばいいんだろう。 「ちょっと叩いてみる?」  根本先輩に言われて、バチを握ってみる。「マレット」と先輩は言った。  叩いてみると、ボワンと気の抜けた音が出た。こんなのでいいのだろうか。 「あー、もっと芯がほしいね」  根本先輩は、私からマレットを奪うと、太鼓の前に立った。 「中心を狙って、こう!」  ダンっ! 今度は小気味よい、体に響くような音が出た。 「全然違う」  小さい先輩が叩いた音とは思えなかった。 「ね。パーカスって奥が深いんだよ。ただ叩くだけじゃないんだよ」  ふんっふんっと鼻息あらく根本先輩がマレットを返して来た。 「もう一度、やってみます」  さっきの先輩は、少しかがんで、そして右手をあまり振り上げていなかった。同じように、真ん中を狙って。  ドン!  先輩ほどではないけど、まぁまぁな音が出た。 「そうそう、そういう感じ。もうちょっと足を出して斜めに立って、そうそう」  しばらく練習したあと、「じゃあ、合奏までちょっと一人で練習しておいて」と根本先輩はティンパニーの前へと戻っていった。  初日から、結構盛りだくさんだ。  私は改めて音楽室を見渡す。だいぶ人が増えて、みんな熱心に自分の楽器と向き合っていた。私のように、先輩について教わっている人も何人かいる。きっと一年生だろう。  室伏さんは、また顔を少し赤くしてクラリネットを熱心に吹いていた。  クラリネットはいっぱい、と言っていたとおり、クラリネットを吹いている人は何人もいるみたいだった。私が入る余地はあるんだろうか。少し不安になる。  だけど、今は与えられたことをやるまでだ。根本先輩も幸い、いい人そうだし。私は、また大太鼓に向き合って、あの「ダンッ!」を出すべく練習に励んだ。
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