4、上手くいかないこともある

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4、上手くいかないこともある

 次の日の放課後、昨日よりも自信をもって音楽室の扉を開く。またちらちらと見られるけど、今度はあまり気にならなかった。まっすぐ、一番後ろのパーカッションパートのところに行く。 「こんにちは」  根本先輩は、にこりと笑って「こんにちは」と返してくれた。他のパーカッションパートの生徒たちとも、今日は挨拶を交わしてみる。昨日はそんな余裕がなかったから、顔も見ていない。 「二組の三島さんだよね」  二本の棒で肩を叩きながら言ってきたのは、竹本という男子だった。一年生のとき、確か同じクラスだった。ほとんど話したことないけど。竹本くんはクラスでは、あまり印象がない感じだった。 「竹本くん、吹奏楽部だったんだ」 「そうそう。知らなかった? ていう俺も、三島さんが音楽に興味があるなんて知らなかったなぁ」 「まぁね。突然だったから」 「へぇ?」 「クラリネット希望なんだけど、しばらくここでお世話になるみたい、よろしくね」 「よろしくぅ」  竹本くんは、小太鼓の方に戻って行って、タタタンとリズミカルに練習しはじめた。結構やるじゃん、と感心する。知らなかった、元クラスメイトたちの一面をのぞいている気がした。 「昨日CD聴いてみた?」  根本先輩が話しかけて来る。 「はい、合わせて手を叩いてみたけど難しかったです」 「でしょう!」 「スマホに落としたんで、聴きながら練習してみてもいいですか?」 「いいよー。あ、でもまずは音を出す練習をやって。三十分ずつやろう」  先輩に従って、まずは真ん中を打てるようにただただ打つ練習を繰り返す。メトロノーム、というリズムを刻む機械を貸してもらって、それに合わせて打てるようにやってみた。 「三島さん、いつも教室出るの早いねー」  いつの間にか、室伏さんが近くに来ていた。 「うん、ちょっとでも早くやりたくて」 「はまってきてるねー」  嬉しそうに笑うと、室伏さんはクラリネットパートが集まる場所に帰って行った。私が向こうのパートに行けるのはいつなんだろう。また少し不安になるけど、今はこの太鼓を出来るようになるしかない。ただただリズムに合わせて、いい音を出せるように無心でやった。
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