4、上手くいかないこともある

2/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
 三十分経って、音源と合わせてみる。イヤホンを耳にセットして、再生ボタンを押した。 「うわ、難し」  思わずひとり言が漏れる。叩く間に、どんどんずれていくのだ。このまま合奏に突入すると、危ないところだった。昨日、家で手拍子を合わせられたのですっかり油断していた。手拍子を打つのと、太鼓を打つのでこんなに違うなんて。 仙人が出てくるまで、必死で練習した。    やがて、仙人が奥から出てきて、またみんながしんとする。  私もマレットを手に、大太鼓の前にスタンバイした。根本先輩は何も言わなかったから、演奏していい、ということだと勝手に受け取る。今日こそ、合奏に参加するつもりだった。かまえると、仙人は「お」という顔でこっちを見た。「やります」と伝える意味で、軽くうなずく。  さっと仙人が手を上げて、またすうっとみんなの呼吸が聞こえて曲がはじまった。  あれ。曲が進むうちに、段々自分が焦って来ているのを感じた。叩こう、と思う。ここだ、とも思うのに、体が動かなかった。音を出すのが怖い。大太鼓の音は、結構大きい。この合奏を、みんなの作った音を壊しそうでちゅうちょしてしまった。私は困って、仙人を見る。  そんな私に仙人は気が付いて、今、というときに、こちらに合図をしてくれた。それにつられて、私も右手を振り下ろす。だぁん、と音が鳴った。小さくてぼやけた音。すごくかっこ悪い。なんだこれ、と思った。メトロノームに合わせて音を出していたのとは全然違う。それでも、なんとかそんなふにゃふにゃした音で一曲をやりきった。 「はぁ……」  曲が終わりうなだれていると、根本先輩が近寄って来た。 「すみません」  謝ると、ふんふんと鼻を鳴らしながら、根本先輩は笑った。 「最初から出来るわけないじゃん。上出来だよ。練習、頑張ってね」  ただ叩くだけだと思ったのに難しいんだな。パーカッションの奥深さに、私は打ちひしがれた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加