1、オレンジの音楽室、写真のおじさんとクラスメイト

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1、オレンジの音楽室、写真のおじさんとクラスメイト

 夕陽でぼんやりとオレンジ色に染まる音楽室で、私は後ろに手を組んで一人ふらふら歩きながら、壁を見上げていた。高校生になってから、音楽室なんて、全然入っていない。高校の芸術は、音楽、美術どちらか選択で私は美術を選択しているからだ。美術の方が、友達と話す時間になりそうだったからっていう理由で。というわけで、この音楽室に入る機会がいままでなかった。 壁の上の方には、作曲家たちの絵や写真が飾られている。  その中に、日本人のおじさんの写真があるのを見つけた。ちょっとかがんで、楽譜を手にしている。 「誰、あんた」  白黒写真に向かって言ってみても、答えはない。  どうしてそのおじさんがそんなに気になるのか分からなかった。でも、おじさんが他の作曲家たちとは違って、威厳も何もなさそうな顔で、ただむっと楽譜を眺めているのが、なんだか目についた。  モーツァルトやベートーベンくらいなら知っているけど、このおじさんは初めて見る。中学の音楽室に、こんな人は確かいなかったよね、と思い出してみる。そんなに有名な人じゃないのかもしれない。 そもそも、私は音楽に興味がそんなにない。小さいころ、近所のお姉さんがピアノを習っているのに憧れて、親にねだってはじめたものの、一年も経たずに辞めたくらいだ。  そんな私がどうして音楽室に来てみたかというと、ただの時間つぶしだった。この三日間、放課後には、二年生にあがってはじめての二者面談が行われていて、あと二十分で私の順番がくる。憂うつだ。進路なんて別にまだ決めていない。  どうせ時間もおしているだろうし、暇つぶしで学校をぶらぶら探検しているのだ。  毎日がつまらなくて、まいっていた。別に二者面談があってもなくても同じだ。面談がない日は、友達と教室でだらだらと話すか、駅前をぶらつく。おしゃべりに、カラオケに、ショッピング。合コンは興味ないからいかない。バイトは疲れるからしない。勉強は、叱られない程度にする。つまり、暇な帰宅部女子高生を謳歌している。
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