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パパパーン、と曲が始まる。私は夢中で太鼓を叩いていた。走って来たからか、耳の奥で、まだばくばくが聴こえる。それが、不思議と曲のリズムと会っていた。
今日は、自分の音が曲を壊してしまうかも、なんて考えなかった。おそるおそる出していたのじゃ、何のために走って帰って来たのか分からない。失敗してもいい。今できる音を、思い切り出す。友美が机をだんだん叩いて応援してくれたのが、頭の片隅に浮かんだ。
曲が終わり、はっと仙人の顔を見ると、こちらを見て柔らかい笑みを浮かべていた。
「えーすごいじゃん、三島さん」
竹本くんが駆け寄って来る。
「えっ、すごい? 何が」
「何って、昨日までと音全然違うじゃん。なんか昨日とかは自信なさそうにしていたのに。今日はいい音出てたよ」
「そ、そうかなっ」
無我夢中でよく分からなかった。よかったんだろうか、私。
「うん、よかったよっ」
鼻をふんふん鳴らしながら、根本先輩もティンパニーの向こう側から声をかけてくれた。
「ありがとうございます!」
はじめて、ここに居てもいいんだと思えた。私、ちゃんと合奏に参加できたんだ。はじめて。
「あ、でもあそこがずれてた。えっと、ほらここの三小節目の」
先輩が楽譜を指しながらやってきて、個別指導がはじまる。でもそれも嬉しかった。今まで、一人であっているのかあっていないかも分からなかった。先輩も指導のしようがなかったんだろう。それが、今は具体的に教えてもらえてる。進歩だ。
今日、来てよかった。私は心の中で、背中を押してくれた友美にお礼を言った。
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