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「あれ、三島さん」
音楽室に入って来たのは、同じクラスの女の子だった。制服の着こなしもださい感じだし、正直タイプが違って、今年はじめてクラスが同じになってから、まだ一度も話したことがない。確か名前は……。
「あぁ、室伏さん。えっと、部活?」
なんとか名前を思い出してほっとした。
「うん。私は吹奏楽部だから」
室伏さんはそそくさと、背中に背負った楽器を机に置いた。それを横目で確認して疑問を口にする。
「今日、全校部活は休みじゃない?」
二者面談の間は部活は休みのはずだ。私は何の部活にも入っていないけど、友達が話していたので覚えている。
「まぁそうなんだけどね。一日練習しないと下手になるから。こっそり」
ふふっと室伏さんは短く笑う。その横顔が、なんだか大人っぽく見えた。こんな風に笑う子なんだと初めて知った。クラスにいるときは、とても地味に見えたのに、ここでは印象が違うような気がする。
室伏さんは、ケースを開けて楽器を取り出した。小箱から木の板を取り出して、吹き口のようなところにねじで留めていく。そしてかちかちと組み立てていく。黒くつやっとした棒に、銀色のボタンがたくさんついていた。
「それ、何ていう楽器だっけ」
「これは、クラリネット」
答えると、室伏さんはすうと息をすって、楽器を吹いた。指が高速で動いていて、低い音から高い音までなめらかに繰り出される。
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