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布団の中で、今日の勝因を振り返ってみると、走って疲れたことがよかった、という結論に達した。
その結果をふまえて、私は、合奏前に走り込みをすることに決めた。さっそく今日から実践だ。
放課後に音楽室に直行して、まずは音を出す練習をする。その次に、音源を聴きながら、一通り流して、苦手なところは繰り返す。そして、仙人が出て来る十分前になったら、音楽室を出る。シュミレーション通り、合奏十分前に、私は音楽室を抜け出そうとした。
「どこ行くの、三島さん。あと少しではじまるよ合奏」
廊下に出たところで、竹本くんがわざわざ追いかけてきて、呼び止めた。
「昨日さ、走って合奏に来たらうまくいったんだ。疲れた方が余計なこと考えずにいいのかもしれない! だから少し走って来る。先輩にもそう言っといて」
「えっ。わざと疲れるってこと? なんかおもしろ」
笑っている竹本くんを残して、私は廊下を走り出した。
狭い廊下を走るだけじゃそんなに息は上がらなかったので、階段を上り下りすることにする。上るときは一段飛ばし。下るときはなるべく足さばきを早くして、行ったり来たりを繰り返す。
「あ、ヤコ」
何度目かの上り下りで、ばったり会ったのは友美だった。
「あれ友美。帰らなかったの」
私は足を止める。
「うん。ヤコに触発されてさ、私もちょっと図書室に行ってみたんだ。読書? とかしてみようと思って」
「友美が図書室? 似合わな」
笑ってしまうと、友美はむすっとした。
「ヤコだって、音楽室似合わないから」
「そっかそっか。確かに」
お互い様だ、と私たちは笑いあって別れた。友美が図書室ね。階段を駆け上りながら、思い出すとまた笑ってしまう。似合わなさが面白いのもあるけど、私の行動がそんな風に友美を動かしたなんて、なんだかくすぐったかったのもある。
「そろそろ、戻らなきゃね」
もう十分が経つ、仙人が出て来るころだった。
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