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その日の合奏も、おおむね成功だった。私的には。昨日根本先輩に言われたところはまた失敗してしまったけど、頭では「そういうことか」と分かった気がしたから、次は出来るかもしれない。音もちゃんと出せた。だんだん怖さが消えていったのが分かる。
やっぱり疲れてから合奏に参加するのは、私にとっては有効みたいだ。
自分の作戦が成功したことに満足しながら楽器を片付けていると、室伏さんが声をかけてきた。
「三島さん、使えそうなクラリネット、探しておいた」
差し出されたのは、ぼろぼろのケースだった。
「ごめんね、古いのしかなくって」
「おーありがと。開けてみてもいいかな」
ぱちぱち、と金具を外す。いよいよ、クラリネットを実際に手に取れるんだ。どきどきしてきた。古びたケースを開くと、中からはケースよりはましだけど、やっぱり古そうな棒が何本か出て来た。黒い塗装はところどころはげているし、金属部分はさびも見える。だけど、それでも嬉しかった。おそるおそる取り出してみる。
「こうやって、組み立てるの」
室伏さんは、ゆっくりと私から受け取ると、四本の長かったり短かったりする棒をかちかちと留めた。そして、最後に口のところを取り出す。
「マウスピース」
それだけ言って、ポケットから出した箱から、木の板を一枚選ぶ。板をすっと口で湿らせてからマウスピースと呼んだ棒に板を取り付けた。ぱくりと加えると、ふうっと息を吹き込む。その瞬間、ぶぅー、っと大きな音が出た。
「これでいいね」
そのマウスピースを、さっき組立てた棒の一番上にはめると、その棒はクラリネットになった。
「楽器になった」
私がつぶやくと、室伏さんは少し笑ってから、口に加えた。
なめらかな手の動きとともに、音階が流れ出す。一音一音、気迫がこもっているような気がした。近くで聴くと、結構迫力がある。
人が吹く息で、こんなに大きな音が出ているんだからすごい。素人の感想かもしれないけど、私は室伏さんを見ながらそう思っていた。楽器って、エネルギーみたいなものを増幅させるのかもしれない。
「どう?」
気づけば室伏さんが、私をのぞき込んでいた。はっとして「うん、すごい」と答える。
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