5、不真面目な友達と私の作戦

10/11

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「ね、古いけど結構音、ちゃんと出るんだよ。はい」  楽器を渡されて、面食らった。 「えっ、えぇっと。どうすれば」 「触ってみれば」  ボタンのところを押してみると、かちかちと音がした。結構重たい。こうなってるんだ。ボタンを押すと、ふたみたいなのが、開いたり閉まったりする。 「吹いてみてよ」  無茶ぶりだ。さっきの室伏さんのことを思い出して、見よう見まねで、口に加えて息を吹き込む。 「ぶっ、く、苦しっ!」  息の逃げ場がどこにもなくなって、ぶはっと口を外した。はぁはぁと息を吐く。あんなに大きな音を室伏さんは出してたのに、どれだけ吹いても音は出なかった。 「ま、すぐには音なんて出ないよ」  室伏さんはいたずらっぽく笑う。最初から、音なんて出せないと知っていた顔だ。無害なふりして、この子案外性格が悪い。私は、唇をとがらせて「そうですかー」と答えた。 「少しずつ教えるね。でも、まずはコンクールのための大太鼓だから」 「そうだね。またよろしく」  その日はそれだけで終わった。私のはじめてのクラリネット体験は、一音すら出せずに終わった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加