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「中学から、やってるの?」
音が途切れたときに聞くと、室伏さんはぷはっと口を楽器からはずした。
「そうだよ。中学ではじめて、この高校の吹奏楽部に憧れて入ったの。この学校は、成木作品で有名だから」
「え、何?」
「成木先生の曲を、この学校よく演奏するの」
さっき私が見ていた、おじさんの写真を室伏さんは指さす。
「成木先生は、有名な作曲家でね。昔ここの顧問をやっていたんだって。だから、今でも成木先生の曲は、この高校の十八番なの」
おじさん、先生だったんだね。黙ってまた写真を見つめた。
室伏さんは、水を得た魚のようにうきうきと話を続ける。
「中学のときに、コンクールで他の学校が成木先生の曲を弾いていてね、それでほれちゃったんだ。すごくいい曲がたくさんあるんだよ」
こんなにぺらぺら話す子だったんだと、私はおじさんの写真から、室伏さんに目を移した。室伏さんは、頬を少し赤くして、目をきらきら輝かせている。まるで恋でもしているみたいだった。
「今度、演奏会があるから聴きに来て!」
チラシとチケットを渡された。興味、ないんだけどな。そう思いつつ、もう一度おじさん、成木先生とやらの写真を見上げる。やっぱりおじさんは、難しそうな顔をしてじっと楽譜を見つめるばかりだった。
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